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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)8547号 判決

原告

川口博美

被告

浪越久雄

ほか一名

主文

一  原告の別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、被告浪越久雄に対し、金六〇一万六五八〇円、被告浪越直子に対し、金一五七万三四四三円を超えて存在しないことを確認する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、被告浪越久雄に対し金一二九万二九九四円、被告浪越直子に対し金一三八万三六〇〇円を超えて存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  別紙記載の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  原告は、民法七〇九条により、被告両名が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

3  本件事故による残損害額は、被告浪越久雄(以下「被告久雄」という。)につき一二九万二九九四円、被告浪越直子(以下「被告直子」という。)につき一三八万三六〇〇円を超えるものではない。

4  しかるに、被告らは原告に対し、右金額を超える損害賠償請求権を有すると主張している。

5  よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否

1  請求の原因1及び2はいずれも認める。

2  同3は争う。

3  同4は認める。

4  同5は争う。

三  被告らの主張

1  被告久雄の損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

頸椎捻挫、腹部打撲、腰部打撲

(2) 治療経過

入院

昭和五八年三月一四日から同年四月四日まで麻田病院、昭和五八年四月五日から同年一二月二九日まで三愛病院

通院

昭和五八年一二月三〇日から昭和五九年四月三〇日まで同病院

(3) 後遺症

頭痛、右上肢等しびれ感、腰部脱力鈍痛等が昭和五九年四月三〇日症状固定し、自賠責保険手続上自賠法施行令二条別表等級一二級相当と認定された。

(二) 入院雑費 二三万二八〇〇円

一日当り八〇〇円の二九一日分

(三) 交通費 五万円

香川県丸亀市所在の麻田病院から大阪府豊中市所在の三愛病院まで転医するため要したタクシー等の料金

(四) 逸失利益

(1) 休業損害

被告久雄は、本件事故当時、鈑金業を営み、一日当り三万七〇一四円の収入を得ていたが、本件事故により昭和五八年三月一四日から昭和五九年四月三〇日まで休業を余儀なくされ、その間一五二四万九七六八円の収入を失つた。

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

被告久雄は、前記後遺障害のため、四年(四八月)間その労働能力を一四パーセント喪失したものであるから、後遺障害に基づく逸失利益は、左記算式のとおり七四六万一六〇〇円となる。

(算式)

三万七〇一四×三〇×〇・一四×四八≒七四六万一六〇〇

(五) 慰藉料

入通院分 一八〇万円

後遺症分 一二〇万円

(六) 損害の填補

被告久雄は自賠責保険金二〇九万円及び原告から二九〇万円の支払を受けた。

(七) 従つて、被告久雄の残損害額は少なくとも二一〇〇万四一六〇円となる。

2  被告直子の損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

頸椎捻挫、腰部打撲、腰椎捻挫

(2) 治療経過

入院

昭和五八年三月一四日から同年四月四日まで麻田病院、昭和五八年四月五日から同年一一月六日まで三愛病院

通院

昭和五八年一一月七日から昭和五九年四月三〇日まで同病院

(3) 後遺症

右肩凝り、頸部運動痛、腰部鈍痛等が昭和五九年四月三〇日症状固定して、自賠責保険手続上自賠法施行令二条別表等級一二級相当と認定された。

(二) 入院雑費 一九万〇四〇〇円

一日当り八〇〇円の二三八月分

(三) 交通費等 五万円

1(三)記載と同様のタクシー料金等

(四) 逸失利益

(1) 休業損害

被告直子は、事故当時、主婦として、一日当り三四〇〇円の収益をあげていたが、本件事故により四一二日間休業を余儀なくされ、その間一四〇万〇八〇〇円の収益を逸失した。

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

被告直子は、前記後遺障害のため労働能力が低下し、一二五万円の収益を逸失した。

(五) 慰藉料

入通院分 一七〇万円

後遺症分 一二〇万円

(六) 損害の填補

被告直子は自賠責保険金二〇九万円及び原告から六五万円の支払を受けた。

(七) 従つて、被告直子の残損害額は三〇五万一二〇〇円となる。

四  被告らの主張に対する原告の認否

1  被告らの主張1の(一)は認める。(二)ないし(五)は不知もしくは争う。(六)は認める。(七)は争う。

2  同2の(一)は認める。(二)ないし(五)は不知もしくは争う。(六)は認める。(七)は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

別紙記載のとおり本件事故が発生したことは、各当事者間に争いがない。

二  責任原因

原告が、民法七〇九条により、被告両名が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任があることは、各当事者間に争いがない。

三  損害

1  被告久雄

(一)  受傷、治療経過

被告久雄が、本件事故により被告らの主張1(一)(1)のとおりの傷害を負い、同(2)のとおり入通院治療を受け、同(3)のとおり後遺症状が固定したことは、関係当事者間に争いがない。

(二)  入院雑費

被告久雄が二九一日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中少なくとも一日八〇〇円の割合による合計二三万二八〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  交通費

被告久雄は、前記麻田病院から三愛病院まで転院のためタクシー代等として五万円を要したと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

(四)  逸失利益

(1) 休業損害

成立に争いのない乙第四号証、被告久雄本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第六号証及び第七号証の各一ないし一二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一一号証、被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、被告久雄本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告久雄は、本件事故当時四四歳で、金属屋根施行管理士の資格(社団法人日本長尺金属工業会の検定)を有し、鈑金業を営み、約一〇年間勤続している従業員二名と共に稼働し、専ら杉原鈑金店の仕事の下請けをしており、本件事故前の昭和五七年一月から一二月までの一年間に杉原鈑金から合計一九五〇万一〇〇〇円の報酬を受けていた。従業員を使用して鈑金業を自営するために必要な経費(人件費は除く。)を控除した所得率は七〇パーセントと考えられ、前記のとおり約一〇年間勤続している従業員二名と共に作業しているという稼働状況等を考え合わせると、右所得に対する被告久雄の労働の寄与度は四五パーセントと認められるから、被告久雄の事故前の労働による一日当りの実収入額は左記算式のとおり一万六八二九円(端数切り捨て、以下同じ)となる。

(算式)

一九五〇万一〇〇〇×〇・七×〇・四五÷三六五=一万六八二九

被告久雄は、本件事故後休業したが、その受傷の程度、治療状況等諸般の事情を考慮すれば、収入の逸失の内、昭和五八年三月一四日から同年一二月二九日までの入院期間中(二九一日)の一〇〇パーセント、同月三〇日から昭和五九年四月三〇日までの通院期間中(一二三日)を通じて四〇パーセント相当が本件事故と相当因果関係のある休業損害であると認められ、左記算式のとおり五七二万五二二五円となる

(算式)

一万六八二九×(二九一+一二三×〇・四)=五七二万五二二五

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

前記認定の受傷及び後遺障害の部位、程度並びに弁論の全趣旨によれば、被告久雄は前記後遺障害のため、昭和五九年五月一日から少なくとも三年間、その労働能力を一四パーセント喪失するものと認められるから、被告久雄の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり二三四万八五五五円となる。

(算式)

一万六八二九×三六五×〇・一四×二・七三一〇=二三四万八五五五

(五)  慰藉料

本件事故の態様、被告久雄の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、被告久雄の慰藉料額は二七〇万円とするのが相当であると認められる。

2  被告直子

(一)  受傷、治療経過

被告直子が本件事故により被告らの主張2(一)(1)のとおりの傷害を負い、同(2)のとおり入通院治療を受け、同(3)のとおり後遺症状が固定したとは、関係当事者間に争いがない。

(二)  入院雑費

被告直子が二三八日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中少なくとも一日八〇〇円の割合による合計一九万〇四〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  交通費

被告直子は、前記麻田病院から三愛病院まで転院のためタクシー代等として五万円を要したと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

(四)  逸失利益

(1) 休業損害

被告直子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告直子は、本件事故当時四九歳で、被告久雄の妻であり、主婦として、少なくとも被告直子主張のとおり一日当り三四〇〇円の収益をあげていたものと認められるところ、被告直子は本件事故後休業したが、その受傷の程度、治療状況等の諸事情を考慮すると、右収益の減少の内、昭和五八年三月一四日から同年一一月六日までの入院期間中(二三八日)の一〇〇パーセント、同月七日から後遺症状の固定した昭和五九年四月三〇日まで(一七六日)を通じて四〇パーセント相当が本件事故と相当因果関係のある休業損害であると認められ、左記算式のとおり一〇四万八五六〇円となる。

(算式)

三四〇〇×(二三八+一七六×〇・四)=一〇四万八五六〇

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度並びに弁論の全趣旨によれば、被告直子は前記後遺障害のため、昭和五九年五月一日から少くとも三年間、その労働能力を一四パーセント喪失するものと認められるから、被告直子の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり四七万四四八三円となる。

(算式)

三四〇〇×三六五×〇・一四×二・七三一〇=四七万四四八三

(五)  慰藉料

本件事故の態様、被告直子の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、被告直子の慰藉料額は二六〇万円とするのが相当であると認められる。

四  損害の填補

被告らの主張1(六)及び2(六)の事実は、各当事者間に争いがない。

従つて、被告久雄の損害額は、前記損害額一一〇〇万六五八〇円から右填補分四九九万円を差引いた六〇一万六五八〇円、被告直子の損害額は、前記損害額四三一万三四四三円から右填補分二七四万円を差引いた一五七万三四四三円となる。

五  結論

よつて、原告の本訴請求は、原告の本件事故に基づく損害賠償債務が、被告久雄に対し金六〇一万六五八〇円、被告直子に対し金一五七万三四四三円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

別紙

日時 昭和五八年三月一四日午前五時二〇分頃

場所 香川県丸亀市中府町一丁目二番二号先路上

加害車 軽四輪貨物自動車(香川四〇き二〇五三号)

右運転者 原告

被害者 被告両名

態様 被告浪越久雄が運転し、被告浪越直子が同乗する普通貨物自動車に加害車が追突したもの

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